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■作曲ゴリラというタイトルの、作曲を題材にした小説です。
第1話 作曲の祭典【2019年1月26日更新】
第2話 修行開始の狼煙を上げて【2019年1月29日更新】
第3話 カスタネットおじさん【2019年2月15日更新】


第1話
【作曲の祭典】

 俺の名前は作曲ゴリラ。
作曲が名字でゴリラが名前。
作曲家を目指して日々精進する高校2年生だ。

 今日は全国の作曲家たちが腕を競い合う作曲の祭典、
MBT(MusicBattleTounament)に参加しに来ている。
会場に集まった約1万人の参加者たちが
トーナメント形式で1対1の作曲バトルを行い、
たった一人の頂点たる作曲者を決めるのだ。

 会場はすごい熱気だ。ここにいる参加者たちは、
全員が作曲をする人なのだから驚きだ。
学校では作曲をする友達なんてほとんどいないから、
そのギャップに驚いてしまう。こんなに大勢の作曲家たちが、
普段どこに隠れているのだろうか。

 受付を済ませ、トーナメントの組み合わせが発表される。
今回の参加者は10256人。
第1回戦は8192人がそれぞれ1対1で戦う。
つまり、1回戦だけでも4096もの試合が行われることになる。
1回戦に参加しない人はシード枠で、2回戦からの参加となる。
シードは前大会の実績などに関係なく、ランダムに決められるらしい。
決勝に行くまでに14回戦もある。
 表を見ると、俺は1回戦からの参加となっている。
どうやら1回戦の中でも、一番早い時間帯で行われる試合のようだ。
相手の名前は「如月タクト」。洒落た名前だなぁ。
もしかして、音楽一家だったりするのだろうか。

 大会のルールはシンプルだ。
お題が与えられ、制限時間内に曲を作る。
審査員による多数決で、曲がより優れていると認められたほうが勝者となる。
1回戦には3人の審査員がつくらしい。本当にすごい規模の大会だ。
一人5000円の参加費だけで費用を賄えているのだろうか。

 もう間もなく試合が始まる。
俺は機材の入ったスーツケースを転がしながら、
1回戦が行われるブースへと足を運んだ。
 楽器や機材は自分で持ち込むルールだ。
俺はパソコン上で作曲をするスタイルだから、
愛機であるノートパソコンと、それにインストールされたCu○ase、
そしてMIDI鍵盤とオーディオインターフェースだけで充分だ。
ちなみに、MIDI鍵盤は音の確認用だ。ピアノ弾けないし。

 ブースの辺りに着くと、対戦相手の如月タクトは先に来ていた。
同い年くらいに見える。機材は俺と似た構成だが、
ギターを持っている。ギター弾けるのか。かっけーなぁ。
せっかくだから挨拶しておこうかな。

 俺は如月タクトのブースへ近づき、
なるべくフランクになるよう心がけながら、にこやかに挨拶をする。
「初めまして、俺は作曲ゴリラ。今日はよろしくな。」
すると、如月タクトは人当たりのよい笑みを浮かべながら挨拶を返してきた。
「作曲さん、こちらこそよろしくお願いします。ボクは如月タクト。」
「ゴリラって呼んでくれよ。年も近そうだしさ。あ、俺は高2なんだけどね。」
 少し馴れ馴れしすぎたかなと思ったが、如月タクトは気を悪くした様子もなく返事をしてくれた。
「ボクも高校2年生だよ。ええと、ゴリラ、ボクのこともタクトで構わないよ。」
「同い年かー! 学校でも作曲する友達とかいなくて、作曲家目指してて孤独でさ、タクトに会えてよかったよ。」
普段人見知りの俺だが、予想外に打ち解けて喋れている。タクトの人柄だろうか。
そう思っていると、タクトから予想以上の反応があった。身を乗り出す勢いだ。
「君も作曲家を目指しているの!? 仲間に会えてうれしいよ。でも、今日は手加減しないよ。」
「おう、よろしくな。」
 予想以上に会話がはずんでよかった。
開始時間もそろそろなので、俺達はそれぞれの席につくことにした。

 席につくと、机にはお題の書かれた紙が伏せられていた。
1回戦の制限時間は4時間。開始と同時にお題の内容を見て、
その題に沿った曲を1曲作ることになる。
 機材の配線をつなぎ、準備は万全だ。開始まであと5分。
試験前のようで緊張する。
 対戦相手の如月タクトのほうをちら見すると、
ギターのチューニングをしているようだ。楽器が弾けるのは憧れるなぁ。
というより、参加者では楽器が弾けない人のほうが珍しいくらいだろう。
参加資格が特にない大会とはいえ、場違いなところに来てしまっただろうか。
 いや、俺だって作曲家を目指してやってきたんだ。全力で曲を作るのみ。

 試合開始を告げるアナウンスが響く。
お題は「ボサノバ」。
 作ったことのないジャンルだ。
どんな曲なのかピンとこない。サンバみたいなものだろうか。
コンガとかマラカスとかを鳴らして、
伴奏にギターを使えばそれっぽくなるかな。
 とにかく、分からないなりにやってみよう。
ちなみに俺の得意ジャンルはゲームの戦闘曲だ。
これまでゲームの戦闘BGMのような音楽を作り続け、
その数は100に届こうとしている。その経験を生かして作ろう。

 作業に没頭すること3時間半。
俺は「剣をギターに持ち替えて~ボサノバ風戦闘曲~」を急ピッチで完成させた。

 審査は曲が完成した順に行われる。
どうやら如月タクトはまだ作曲中のようだ。
俺はオーディオインターフェースを会場の大型スピーカーに繋ぐ。
機材は基本的には持ち込みだが、再生用のスピーカーは
MBT側で用意された設備を使ってもよいことになっているのだ。
完成した曲をパソコン側から再生すると、
大型スピーカーから自分の曲が流れ始めた。
こんなに大きなスピーカーで曲を流すのは初めてだ。
なんとなく気恥ずかしいが、サウンドに迫力がある。
けっこういいんじゃないか、俺の曲。

 おそるおそる審査員のほうを見ると、
なにやら微笑ましいものをみるような目をこちらに返してくる。
あれ、どうしてだ、どうして「DTM始めたての高校生が頑張って作ったんだねぇ」
みたいな眼差しを向けてくるんだ。もしかして、その通りなのか。
曲が終わって、パラパラと儀礼的な拍手が起こる。

 次は、タクトの番だ。
タクトも曲を作り終えていたらしい。
マイクを備え付けて、ギターを構えている。
そして、パソコンをスピーカーに、つながなかった。
 タクトはギターを構え、演奏を始めた。
ピックを使わず、指で奏でる。その伴奏に乗せて、
耳慣れない外国語の歌詞で歌い始めた。

 その瞬間、俺の意識は遥かブラジルにあった。
夕日をバックに優雅にコーヒーカップを傾ける。
緩やかに時が流れ、そして、
俺の意識がMBTの会場に戻ったとき、
タクトの演奏は終わっていた。
大喝采だった。気がつけばギャラリーが大勢集まっている。

 信じられなかった。俺はずっと東京にいたのに、
一瞬で意識をブラジルへと持っていかれてしまったのだ。
しかも、苦手で飲めないはずのコーヒーまで飲みながら。

 審査員たちもブラジルに行っていたらしい。
結果は見るまでもない。3-0のストレート負けだ。

 集まっている観客たちも
口々に如月タクトの曲を絶賛している。
バチーダ奏法が素晴らしいとか、ポルトガル語がどうとか、
ジョアン・ジルベルトがなんだとか、
苦手なコーヒーを飲んでいたとか。

 完敗だ。悔しいが、こういうときは紳士的に勝者を称えるべきだろう。
俺はタクトに賛辞を述べるべく歩いていき、声をかけようとする。
「タクト――」
その声はタクトによって遮られた。
「君には失望したよ。」
えっ。
「作曲家を目指す仲間に出会えたと思ったのに。
ゴリラ、君はただ趣味で楽しく作曲したいだけの人だったんだね。」
なんだ。急にどうしたんだ。俺は戸惑いながらも腹が立って言い返す。
「なんだよその言い草! 俺だって作曲家を目指してるよ。」
だが、タクトは俺の言葉には答えず話を続ける。
「今回のお題はボサノバだ。でも、君は自分の作りたい曲を作っただけだよね。
好き放題曲を作って、演奏する楽器を変えただけだ。」
ひどいじゃないか。俺は、俺なりに頑張ったんだぞ。
「それは、解釈の問題で、ボサノバを別の視点から作ってみようと」
「元のボサノバも知らないのに? 君は色々な音楽ジャンルの研究をしたことがあるの?
君の曲、ゲームの戦闘曲風だったよね。そればかり何曲も作っているんじゃない?」
それは確かにその通りだ。俺が言い返せずにいると、
タクトはなおも言葉を続ける。
「ボクが馬鹿だった。ボクもやっと年の近い同志に会えたと思ったのに。
いや、ごめん、気にしないで。ボクが勝手に期待してしまったんだ。」
なんだってんだ。わけもわからず失望されているこの状況に、
悔しさと怒りがこみ上げてきた。
「俺だって! 本気で作曲家を目指してるさ!
タクト、いつかお前にだって追いついて、追い越してみせる。」
「君が? いつか、なんて暢気なことを言って、
向上のための努力もせず、同じような戦闘曲を書き続ける君がかい?」
タクトの言うことは全て図星だった。
今まで俺は、自分の書きたい曲だけを楽しく書いて、
それでいつか作曲家になれたらいいなって、そう思ってたんだ。
でも、それじゃ駄目だ。気がつくと啖呵を切っていた。
「来年だ。次のMBTで、タクト、必ずお前を見返してやる!」

 それが俺、作曲ゴリラとタクトの出会いだった。




第2話
【修行開始の狼煙を上げて】

「頼む、俺に作曲を教えてくれ!」
俺はクラスメートの雨宮真琴に頭を下げて懇願した。
 昨日、MBTの一回戦でタクトにボロ負けした俺は、再戦に向けて修行を決意した。
そこで、中学時代からの知り合いである雨宮真琴から作曲を教わろうと考え、
指導を頼みに来たのだが――。
「いやよ」
にべもなく断られてしまった。
真琴は軽音楽部の作曲担当兼ドラマーである。
そして、俺にとって数少ない作曲の話ができる知人なのだ。
真琴はドラムの他にも、ベースとピアノが弾ける。
身近にいて作曲を教わることができそうな人物といえば、
俺には真琴しか思い当たらなかった。
「そんなこと言わずに教えてくれよ! 俺に作曲!」
今度は倒置法を用いて頼み込んでみるが、結果は同じだった。
「だからいやだって言ってるでしょ。あんたどうせ、私が教えても聞かないじゃない」
確かに、俺は以前真琴から曲に関するアドバイスをもらったことがあった。
「もっと色々なジャンルに挑戦してみたら」とか、
「ここのハイハットとスネアとシンバルは同時には叩けないんじゃない」とか。
そのとき俺はどう答えただろうか。
たしか、「いやいや、好きな曲を作るのが一番だろ。音楽は楽しまなきゃ。
それに、人間には不可能な演奏ができるのもDTMの醍醐味なんじゃないかな」的なことを言ったような気がする。
他にもあったな。コード進行がいつも同じだとか、同じ調でばかり曲を作っているとか。
そのときは「そうなのか、まあそのうち勉強するよ」的なことを言ったような気もする。
思い返すと、俺はタクトから指摘を受ける以前にも、同じようなことを
真琴から言われていたのだ。そして、俺は真琴の意見を全く聞かなかった。
「すまん、あのときは素直じゃなかった。
心を入れ替えるから、作曲を教えてほしい。いや、教えてください!」
謝罪とともに再度頼んでみる。
「駄目ね。私のことを小馬鹿にしている人にものを教えることなんてできないでしょ。
私はこのあと練習があるから、それじゃあね」
踵を返して歩いていく真琴の後ろ姿を見送る。
ただ、妙なことに、心なしかその足取りが弾んでいるように見えた。

結局、頼みの綱だった真琴には取り付く島もなく断られてしまった。
真琴は軽音部の練習があるというので、これ以上食い下がることもできない。
というより、今のままこれ以上食い下がっても状況はよくならないだろう。
 俺は帰りの電車で、どうすれば作曲が上達するのか、
どうすれば真琴の信用を得ることができるのか、
そして、どうすればタクトに勝つことができるのかを考えていた。
 考えていても埒が明かないが、起こすべき行動も思いつかない。
答えが出ないまま乗り換えの駅で降りる。
ふと、駅前の本屋が目に止まった。
俺は吸い寄せられるようにその本屋へと入っていった。
何となく普段と違うことをしたかったのだ。
 なかなか大きい本屋である。
ビルの1階部分がまるごと書店になっていた。
これだけ膨大な本があれば、今俺が必要とするような本もあるかもしれない。
 本を探すためのパソコンがあったので、そこに「作曲 入門」と入力してみる。
すると、1番目にこんな書籍がヒットした。
『ゴリラでもわかる作曲法』。
 偶然にも、俺の名前はゴリラだ。そしてこの本のタイトルは「ゴリラでもわかる作曲法」。
運命を感じた。足早に目的の書棚へ向かう。
 しかして目的の本はあった。動物のゴリラとギターがシルエットで描かれたシンプルな表紙。
シンプルな字体で書かれた「ゴリラでもわかる作曲法」の文字。
 俺は会計を済ませ、再び家路につく。待っていろ、真琴。待っていろ、タクト。
俺はこの本で作曲法を身につけ、様々なジャンルでかっこいい曲を作ってやるのだ。





第3話
【カスタネットおじさん】


「ゴリラでもわかるんじゃなかったのかよ」
 家に帰るなり夕食を掻き込み、自室に籠もった俺は、
本屋で購入した『ゴリラでもわかる作曲法』を読み始めた。
 しかし、その内容の高度さに出鼻をくじかれていた。
いや、内容が高度であるというよりも、
俺の音楽に関する知識が乏しすぎるのだ。
自慢じゃないが、俺は楽譜が読めない。
ベタな言い方だが、ただオタマジャクシが並んでいるように見える。
 それでも一応ドの位置はわかるので、
ずらして順に数えていき、なんとか解読しながら読み進めていく。
長調と短調。コード進行について。トニック、ドミナント、サブドミナント。
 見慣れない言葉だらけでさっぱりお手上げという部分もあったが、
なんとかわかる部分もある。中には普段自分が気づかぬうちにやっていたことが
音楽理論で説明されているものもあった。
 こうして理論を勉強していると、
俺は自分の曲がワンパターンであることを痛感した。
 必ず1のコード(?)から始まるし、
楽器の編成にしても、いくつか見つけたお気に入りの音を使ってばかりだ。
楽器ごとの特性や奏法なども理解していない。
 だんだん恥ずかしくなってきた。そういえば真琴に
「実際の楽器ではできないことができるのがDTMの醍醐味だ」とか言ったっけ。
 やばい。あとでもう1度謝っておこう。
 型破りなことをするなら、まず型を知ってこそではないか。
楽器のことを全く知らずに適当にウホウホやるのでは、ただの野生児だ。
 その後もワァとかウヘェなどと言いながら夢中で読み進め、
気がつくと午前2時を回っていた。

 翌日、学校での睡眠学習を終えた俺は
帰宅部の特権を行使し、放課後すぐさま下校した。
 そして、再び駅前のビルへと急ぐ。目指すのは2階にある楽器屋だ。
作曲法の本を読んでいたら、実際の楽器も見てみたくなったのだ。
 壁に掛けられたユニークな形状のギターやベースの数々。
 少し移動すると、バイオリン、トランペット、フルート等、オーケストラで使われるような楽器も陳列されている。
 どれも結構な金額である。気軽に手が出るような代物ではない。
 もし楽器を始めるとしたら、作曲のためにはギターだろうか。
昨日得た情報だが、ギターはコードから作曲をするのに向くらしい。
 うんうん唸りながら歩いていると、楽譜や教本の置いてある場所に来ていた。
『ゴリラでもわかる作曲法』もある。売れ筋の本なのかもしれない。
 俺は昨日ぶりの邂逅に嬉しくなり、その本を手に取る。
昨日読めた部分はまだ序章の半分程度。全体の10分の1にも満たない。
俺に知識がないせいもあるが、かなり読み応えのある本だ。
 パラパラとページを捲っていると、突如、後ろから肩を叩かれた。
「君、作曲に興味があるのかい?」
 振り返るとそこにいたのは、明らかな不審者だった。
30代くらいの長身の男で、下はジーンズ、上はGジャン。
衣服のいたるところからカスタネットや鈴、タンバリンなどをぶら下げている。
男はリズムをとるように小刻みに体を揺らしており、
その度にぶら下げられた楽器が音を立てている。
 俺が呆気にとられていると、男は再び言った。
「君、作曲に興味があるのかい?」
 RPGのキャラクターではよくあることだ。
会話はこれしかプログラムされていないのだろう。
圧倒的な不審者に目をつけられてしまった俺は、
そんな現実逃避をしてなんとか心を保とうとしていた。
 放心状態の俺に不審者はなおも声をかけてくる。
「君、ゴリラ君だろ? タクト君との試合、見ていたよ。
君の曲もかっこよかったけど、残念だったね」
 えっ。
 俺の驚いた顔を見て、不審者は満足そうな笑みを浮かべた。
そのGジャンの隙間からは「みゅーじっく」と書かれた黒いTシャツが見え隠れしている。
「君さえよければ力を貸そう。強くなりたいんだろう?」
 驚きだ。この人は俺とタクトの試合を見ていたのだ。
「おじさんは一体……?」
「お兄さんだ。僕の名前は森礼二。電脳作曲バトルシステムというサービスを管理している。
僕のことをカスタネットお兄さんと呼ぶ人もいるかな。」
 突如として現れたこの不審者は、謎のシステムの管理人であり、
俺がタクトに勝つために力を貸してくれると言う。
俺は恐る恐る不審者の目を見た。不審者が熱のこもった瞳で語りかけてくる。
「ゴリラ君、君は強くなれる。一緒にタクト君をギャフンと言わせてやろう!」
俺は――。
「はい!」
 反射的に返事をしていた。


To be continued...